今夏多発した土砂災害が、私の研究テーマの一つです。大学院生の時、アルバイトで建設省の土石流危険渓流調査にかかわったのがそのきっかけでした。
この調査は山間部の集落に入って、土石流がどの谷で何時発生したのか聞き取ることから始まります。土地の古老を尋ねては、「昔から土石流は出たことないよ」「最近2回も出たよ」「子どもの頃からだと4回にもなる」など、文字通りの四方山話をしながら谷ごとのデータを収集していきました。「土石流には免疫性があり一度出た谷からはしばらくは出ない」という考え方がその頃定説でしたから、2回以上も土石流が出たという話は思いがけないものでした。
当時私は放射年代測定の研究をしていましたので、放射性物質の壊変は時間の関数で表現できるものの、一つ一つの原子核の壊変現象は予測できないランダムなものであることを観察していました。土石流も一種の破壊現象に起因していますので、これも核壊変と同じように壊変定数を与えれば、一度も土石流が出ない谷や一定期間に繰り返して出る谷の数が説明できるかも知れないと考えました。
そこで、一定期間の土石流の発生数から平均発生確率を求め、同じ期間内に土石流の発生数が同一になる谷数を関数電卓で求めてみました。電卓に表示された数値に、私は身震いしました。計算結果は山間部の集落で古老から聞き取った結果とほとんど一致したのです。土石流の発生がランダムであることを証明できた瞬間でした。
このような自然の特性を解明しても、土石流防止には直接は役に立ちません。しかし、急傾斜の谷ではランダムに土石流が発生する特性から、安全な谷は存在しないという意識が防災関係者に徹底した意義は小さくありません。
2005年3月20日の福岡県西方沖地震の直後、RKBのディレクターから私のところに番組出演依頼が来ました。最初は「この地震はどんな地震ですか?」という質問でした。何を話したら納得してもらえるでしょう。文献調査中に研究仲間からメールで情報が次々届きました。番組では北部九州では被害地震は過去にも度々起きていたこと、警固断層と離れた場所で同じような力で断層が動いて地震が生じたことなどを解説しました。
「どんな地震か」わかっても被害の軽減には関係ありません。しかし、混乱と不安から理性を取り戻す上で、自然特性の理解は大切であると今は考えています。
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