2018.06.04

新入生歓迎講演会(伊藤先生)が開催されました。

 2018年6月4日(月)、「小さな窓―少年法・少年非行―から見える世界」というテーマで伊藤由紀夫先生をお迎えし、新入生歓迎講演会がチャペルにて行われました。

 伊藤先生は家庭裁判所調査官として38年勤務され、多くの少年事件や家事事件に関わってこられました。先生は調査官の仕事内容として、少年についての周囲の環境などの調査し、調停委員や裁判官へ参考意見を出すなど、裁判官の補佐をすることだ、とおっしゃいました。

 まず、家庭裁判所の歴史やその特徴についての説明をされ、少年事件の特徴や少年事件と成人事件との違いについて少年法の条文を交えながら話されました。家庭裁判所は1949年に地方裁判所から分離した家事裁判所と、旧司法省少年審判所を合わせた新たな裁判所として発足し、一般的な司法手続きだけでは裁断整理しきれない面を持つという特徴があります。また、現在の少年事件の実情として、非行件数は減少しており、以前よりも凶悪化していないという傾向があります。この要因として、先生は非行件数ピーク時(昭和39~41年、昭和57~61年)の教育効果があったからだ、とおっしゃっていました。少年事件と成人事件の処分の違いについて、成人の場合は懲役刑の場合、刑務所で刑務作業をしますが、少年の場合は少年非行の原因がすべて少年だけにあるわけではないという観点から成人とは扱いが異なります。具体的には、将来を守り、閉ざされることがないようにするため経歴に前科はつかず、成長発達途上で、教育の可能性もあることから、個別に矯正教育が行われています。

 その次に、少年との面接調査について自らの経験も交えながら話されました。そこで、先生は最初から自分の行動の理由を説明できる人は少ないため、少年たちの普段の状況や周囲の環境、家族関係についての背景をしっかりと調査し、学校を退学になった子たちへのやり直す機会を与えるために様々な尽力を尽くされるなど、「今ここからどうするかを考える」ことを大切にされてこられました。先生がこのように少年たちと多く接してこられた中で、「社会的に排除すべき少年はいない」と感じた、とおっしゃいました。

 講演の最後に、度重なる少年法の改正と閉塞しつつ、不安定化している世界についてお話されました。2000年以降少年法は厳罰化の方向へと進んでおり、現在は少年法適用年齢を現行の20歳から18歳へと引き下げる議論がなされています。この目的は、選挙権年齢や民法の成人年齢の18歳への引き下げで統一化だといわれていますが、先生はこのような現状に対し、必ずしもすべての年齢を18歳に統一する必要はないと考えておられます。また少年事件のなかで、少年が自分のしたことに対して命を懸けて説明する(=自殺する)ことは非常に悲しいとおっしゃいました。そして、法学部の生徒には、法律がなぜできたのか、その法律をどのようにして活用するのかを考えてほしい、と結ばれました。

 この講演を通して、私自身が思い描いていた少年非行と実際の少年非行の実情が大きく乖離していることや調査官の方々をはじめとして、多くの方々が少年たちをまた元の社会に復帰できるように懸命に努力されていらっしゃるということを実感することができました。法学部で法学を学ぶ者として、先生が最後に問いかけられた「人間にとって一番悪いことは何か」ということをこれから先も考え続けながら 、より一層勉学に励み、絶えまない努力を続けていこうと思います。

記:宮本 千颯(法学部法律学科1年)