ドイツの文学とヨーロッパの文化
18-20世紀のドイツ文学とそれに関連するヨーロッパの文化・芸術を、作品解釈やジャンル論の立場にとどまらず、歴史的さらには相互文化論的な観点も視野にいれて、より開かれた新たな研究対象として読みなおしを試みる。
このゼミは国際文化学科のヨーロッパ・地中海文化コースのなかにあってドイツ文化を扱い「言語」そのものよりも「文学」を中心とする領域を対象とします。日本人にとって一般になじみのあるドイツの文化といえば、音楽や哲学にみられる理想主義的でロマンティックなキャラクター、いわば現実ばなれした伝統があると考えられています。文学においても、ゲーテとシラーの古典主義からロマン主義、リアリズムの時代を経て、20世紀の表現主義、リルケ、ヘッセ、マンあたりまでは、そのような傾向が受け継がれています。このゼミではそうした「ドイツ的な文化」を研究します。

ただし最近の文学は、冷戦後の東西統一からEC統合への時代の流れと関連して、アクチュアルな傾向を見せています。このゼミでは、フェミニズムやエコロジーなどの、まだ文学史に組み入れられない同時代のグローバルでup-to-date な動きにも注目してゆきたいと思います。ドイツがヨーロッパ世界と一体化していた中世から啓蒙主義に至る近代以前の文化も重要でしょう。また西洋文化の理解のためには、日本文学・文化との比較・関連も視野にいれる場合があります。昨年からこのゼミでは、e-Learning システムも積極的に利用しています。学内でホームページを作成していますので、マルチメディア教材(音楽と映像)など、いつでも活用できるようにしています。
すべて必修というつもりはありませんが、できれば履修をおすすめします。
1年次では「基礎演習(ドイツ文化)」「文化基礎論(文学)」「ドイツ語初級」、2年次では「ドイツ文学概論」「近代思想」「イギリス文学史」「ドイツ語中級」、3年次では「フランス文学概論」などです。
「シューマン『詩人の恋』にみる心象世界〜近代調性システムによる感情表現の分析〜」「シュタイナー教育とエンデの『モモ』」「ジャズが20世紀初頭のドイツ文化に与えた影響」「ゲーテ『色彩論』〜感覚的精神的作用を中心に〜」「トーマス・マン『トニオ・クレーガー』の Lisaweta Iwanowna 」「シラー『ドン・カルロス』解読の試み」「E.T.A.ホフマンによる近代のメールヒェン『黄金の壺』」など。
テーマは、文学・芸術に関連する問題から自由に選んでいただきます。卒論文集CD-ROMを制作しています。
顔写真でのごあいさつは遠慮させていただきますが、よろしければ授業でお会いしましょう。ドイツ語や西洋文学の授業を担当しています。ドイツ語は大学1年から学んでいますが、なかなか自由に使いこなせません。大学生の頃は文学よりも音楽に興味があって、クラシック音楽ではモーツァルトからワーグナーまで好きでしたので、芸術の問題と取り組んだ作家トーマス・マンに興味を持ち、翻訳の全集を読んで魅了されました。

大学院ではじめて文芸理論を学び、ゲーテを中心に講読しましたが、文学研究が身についたかどうか何とも言えません。修士論文にもトーマス・マンを選び、その後の研究テーマも相変わらずです。最近はインターネットや新しいメディアにも興味があります。せっかくゼミを担当しているので、ときにはインタラクティヴで挑発的な授業をしたいと思っています。しかし最近の学生さんはおとなしすぎるのですね。
トーマス・マン『トニオ・クレーガー』(新潮文庫など)
文学の講義で感想文を書いてもらうと、いちばん多く選ばれる作品のひとつがやや難解な『ヴェニスに死す』。映画の影響でしょうか。『トニオ・クレーガー』を読まないでどこまで理解できるでしょうか。『トニオ』からゆっくり読まれることをおすすめします。『魔の山』まで登ってゆけば現代文学への展望も開けます。ちなみにマンの作品でいちばん読みやすいのが『ブデンブローク家の人々』でしょう。

『世界の名著 続7 ヘルダー ゲーテ』(中央公論社)
文化閉鎖的な国民文学に対抗してグローバルな文明論的立場から「世界文学」の構想をとなえた晩年のゲーテの発言がまとめてあります。このゼミでもよく紹介しています。他にヘルダーの疾風怒濤の毒舌調『シェイクスピア』と、その影響を乗りこえたゲーテの多面的なシェイクスピア論も収録されています。

ヴォルフガング・カイザー『言語芸術作品―文芸学入門』(法政大学出版)
これで「入門」とは冗談ではありません。読書案内というよりも文献紹介のつもりで挙げました。時代遅れの作品内在解釈のマニュアル本ですが、文芸学用語のカタログとして重宝します。文芸学が発展したドイツ、その大学図書館では今もって貸出ヘビーローテーションの地位にあります。大学院進学希望の方におすすめ。

ジョナサン・カラー『文学理論』(岩波)が、薄っぺらいので売れています。ポストモダン・セオリーと「文学」は関係なかったのだと、最近痛感しています。

古典文学の電子図書館といわれるホームページ、たとえばPennsylvania大学のページなどで作品リストを観て、100万点以上のe-BOOK(電子テキスト)を iPad, Kindle, Sony Reader, iPhoneなどでも利用しましょう。プロジェクト・グーテンベルクでは2011年3月の時点で約33000点のe-BOOKが提供されています。ドイツ文学のProjekt Gutenberg-DE、フランス文学作品のathenagallicaなどもあります。

「おすすめサイト」は教えてもらう必要はないでしょう。googleで自分でサーチするほうがてっとり早いですよ。逆に私たちにおもしろいサイトを教えてください。そしてこれからは日本の貧弱なサイトよりも、海外のサイトに積極的にアクセスしましょう。新たなメディアは情報量の増加や研究のスピートアップだけでなく、学問の質的変化、知の権威の崩壊などをもたらすかもしれません。
申し訳ありません。学内向けで、外からは見られません。
Akao Yoshihide HP