山田裕果

1.はじめに
 ル・コルビジュエ(1887-1965)とは主にフランスで活躍したスイス出身の建築家である。私達は三年次の演習の授業の中で彼の著書である『ユルバニズム(URBANISME)』の文献を通してル・コルビジュエについて学んできた。しかし、紙に書かれた文献を通して学ぶ以上、彼の建築物は平面的である。実際にル・コルビジュエがつくった建築物を訪れることで視覚的に立体の建築物を捉えてみたい。それが、私がこの研究旅行においてル・コルビジュエの建築物を巡るグループの一員となった大きな理由である。
 また、私は個人テーマとして『色』を設定した。その理由として挙げるのは、今私自身が研究対象としている絵本作家である。彼は限られた赤・黄・緑・青・灰・茶という6色のみを使い絵本の制作をしている。その為、私は色について特に関心を持つようになった。図版で見る限り、ル・コルビジュエもまた少ない色を使っているように思われた。だからこそ、私はこの研究旅行においてそれらの色がル・コルビジュエの建築物の中でどのような場所で使われているのかを視点の中心として調べ、考えることにした。
2.配された色
 私が訪れたル・コルビジュエの主な建築物は、スイス学生会館(1930:43歳)、ブラジル学生会館(1954:67歳)、ナンジュセール・エ・コリ通りのアパート(1931:44歳)、サヴォワ邸(1929:42歳)である。それらの外観はブラジル学生会館を除いて白や黒であるか、むき出しのコンクリートだった。また、ブラジル学生会館においても装飾に色が使われているのはベランダ部のみであり、その他の部分はやはりコンクリートであった。しかし、一度建物の中へと足を踏み入れると、そこには色が広がっている。壁一面に色が塗られているというわけではない。家具と同じように、色もまた適した場所に配置されていたと言う方が正しいように思える。お互いが主張し合い相殺することもなく、配された色は違和感のないまとまりをもっていた。ル・コルビジュエの建築において配される色は壁画やコラージュされたものを除くと6色のみである。赤・黄・緑・青・灰・茶の6つの色は濃淡に違いはあったが、原則として守られていた。
 だが、彼の初期の建築物においてはそうではなかったようだ。外観の資料しか探すことができなかったので内部の様子はわからないが、ル・コルビジュエがつくった初期の建築物はどれも、近代建築というよりはヨーロッパの伝統的な建築の要素を多く含んでいる。確かにこちらも使われている色は少ない。けれども、それは使う色を限ったのではなく、建築した結果としてそうなっただけではないのだろうか。なぜなら、初期の建築物の色というのは瓦や石垣など材質としての色がほとんどであり、わざわざ手を加えて配色したものではないからである。ル・コルビジュエは「住宅とは住むための機械である」と言っている。その言葉が示す通り、彼の建築物は余計な部分が削られ、生活のしやすさを重視したシンプルなつくりになっているように思う。しかし、シンプルなだけではなく、建築物内部に配色を行うことで居住者の目を楽しませ、より良い空間を作りたかったのではないだろうか。


【ブラジル学生会館の外観】


【スイス学生会館】
(学生が雑談もすることができる憩いの場となる多目的な部屋と、そこから見えるロビーにつながる階段)

3.自然としての色
 コンクリートによって作られたル・コルビジュエの建築物はどれも空の青い色との対比が綺麗であった。それは、周りの建物とは違い、屋根にあたる部分が曲線の場合も、直線の場合も凹凸がなく、はっきりと区切られて見えるからだろう。私が彼の建築物を回っていて一番感じたことは、ル・コルビジュエは自然を取り入れることにとても長けているということである。元々、彼自身が「建築の要素は、光とかげ、壁面と空間である」と言及しているように光の取り入れにも重きをおいているようだ。サヴォワ邸では一階からのびるスロープを上っていくごとに次第に光量が増し、終には屋上庭園へと辿り着く仕組みとなっていた。ル・コルビジュエが提唱している近代建築の五原則(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、独立骨組による水平連続窓、自由な立面)の中でも、光を取り入れる為の仕組みの一つである水平連続窓が取り上げられている。水平連続窓は窓が区切られることなく一つなぎとなっているので、そこから見ることのできる景色は私たちが普段目にしている窓よりも格段に広大だ。その為、部屋の中心にいる時でさえも、視界いっぱいに広がる外の景色を楽しむことができるのだ。特にサヴォワ邸においてはこの水平連続窓全体に緑が広がっていて美しかった。周りを緑に囲まれた美しい土地の利点を光と共に部屋の中へと取り込んでいる。窓から見える緑さえもがル・コルビジュエによって配された色の一つであり、サヴォワ邸の一部となっていると言えるだろう。また、私が訪れたどの建築物にも天窓がつけられ、自然光を取り入れることのできるつくりとなっていた。光だけでなく、空が映る天窓は窓枠という額に囲まれた絵画のようでもあった。
 光がもたらすのは自然だけではないだろう。光が取り入れられることによって、配色された壁や柱も色を変える。同じ塗料で塗られた『赤』という色でも光の当たる部分と当たらない部分とでは、やはり私達に異なった印象を与えるのだ。その為、光の多く取り入れられたル・コルビジュエの建築は時間と共に刻々と色を変えていくことになる。ただ、光を取り入れるという機能面としての窓ではなく、ル・コルビジュエは全て計算しつくした上で、人に安心感を与える自然としての色や、自然が建築物内にある色を使って新たに作り出す色をも取り入れようとしたのではないかと思う。


【スイス学生会館の外観】

 
【サヴォワ邸】(左図:奥に見えるのが水平連続窓 右図:左図の部屋内部の水平連続窓)

4.空間をつくる色
 ル・コルビジュエの建築物において、私が訪れた全ての建築物に共通することがあった。それは空間が開放的であるということだ。先にも述べた水平連続窓はその役割を大きくになっているだろう。広く大きくとられた窓はそれだけで私達に開放感を与えてくれる。けれども、それだけではない工夫が彼の建築の中にはあった。室内にある柱が濃い色で彩色されていたのだ。柱というのは建築物の要であり、重要なものである。ル・コルビジュエはドミノシステムを考案したことによって、柱を自分の好きな位置に自由に設置することができるようになった。しかし、やはり、それでも柱は残るものである。柱は目障りとまではいかないが、どうしても私達の視界に入り、空間を狭めてしまうものだ。けれど、ル・コルビジュエはその柱に濃い色を塗ることで柱自体に自身を引き締める効果をもたらした。また、ブラジル学生会館のロビーにある柱は緑や黄で塗られ、見た目にも鮮やかである。けれど、これはロビーという人が集まる場所だからこそ、鮮やかな色が配されたのであろう。同じく学生寮であるスイス学生会館のロビーや休憩所も、柱自体は灰色と少し暗めの色だが、その周りに配された壁の色はやはり、鮮やかな色が使われている。人が多く集まる場所には、心が明るくなり、賑やかに会話できるような色が使われているのだろう。私がそう思ったのは、スイス学生会館内の個人の部屋の場合はロビーとは対照的に、扉などに彩色されている程度で、壁は白かったからだ。居住空間である部屋だからこそ落ち着いた配色となっているのだろう。ナンジュセール・エ・コリ通りのアパートの場合も同じだ。アパートの中は割と彩色されているが、寝室などのくつろぐ為の空間には黒や白といった落ち着いた無系色が多く使われている。
 だが、これに当てはまらないのがサヴォワ邸であった。サヴォワ邸の柱はほとんどのものがどれも白かったのだ。サヴォワ邸においては壁に配された色も他の建築物とは違い、全てが淡く薄いものである。また、私が見てきた他の建築物に比べ、部屋自体が広くとられた開放的なつくりとなっている。同じく広いとはいっても大勢の人が行き交うであろう学生会館のロビーや、アパートという以上サヴォワ邸ほど広い空間が取れるはずもないナンジュセール・エ・コリ通りのアパートとは違い、サヴォワ邸はサヴォワ氏の為に建てられた住居空間である。だからこそ、ゆったりとくつろげるようにと壁には淡い色を塗り、元々広い空間をさらに広く見せるというよりは白を使うことで周りとの統一感をつくりだしたのではないだろうか。それによって、生み出されたのは癒しと共に、やはり開放感も含まれているだろう。ル・コルビジュエは誰がその場所を使うのか、また、場所の広さを考えて配色をすることによって、その場にあった快適で開放的な空間をつくろうとしたのだと思う。


【ブラジル学生会館】(ロビー)

 
【スイス学生会館】(部屋内部 左図:部屋入口側 右図:部屋奥側)

 
【ナンジュセール・エ・コリ通りのアパート】(左図:寝室部 右図:入口ロビー)
5.おわりに
 今回、ル・コルビジュエの建築物を実際に回ることができたのは、とても良い経験であった。ほとんど建築物の外観の写真しか見たことのなかった私は、ル・コルビジュエの建築物内にこんなにもの色が配されているということを知らなかった。特にサヴォワ邸は白のイメージが強かったので、壁が青や赤といった色で彩色されていたことにはとても驚いた。また、水平連続窓という言葉自体は知識として持っていても、イメージがよくつかめていなかった為、初めて目の当たりにした時、視界いっぱいに広がった光景に新鮮さを感じた。元より、窓が取り入れてくれる外の景色と、光量の多さは文献で学ぶだけでは決して実感することのできなかったものだと思う。
 柱や壁に大胆に色を使い、だがそれでもル・コルビジュエの建築物はシンプルさと、まとまりを失ってはいない。配された色は濃い色も淡い色も、どの建築物においても鮮やかであった。ル・コルビジュエによって建築されてから、もう数十年が経過している建築物をここまで良い状態で保存することが出来ているのは、やはりコルビジュエ財団によってきちんと管理されているからだろう。彼らの努力がなければ、今回、私達はル・コルビジュエが建築した時とほぼ同じ状態の建築物を見ることは叶わなかったに違いない。だからこそ、私はコルビジュエ財団の方々に感謝するとともに、これから先もル・コルビジュエの建築物を訪れ続けるであろう多くの人々が私達と同じ感動を味わえるよう、今のようにしっかりとした建築物の保存と公開を同時に行っていって欲しいと願う。


注)※「2.限られた色」 内の(  )における数字は(制作完成年:当時のル・コルビジュエの年齢)である。


<参考文献>
『建築をめざして』 ル・コルビジュエ:著  吉阪 隆正:訳  鹿島研究所出版会

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